大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2378号 判決

一、次に、被控訴人の民法第六百十二条の類推適用又は著しい背信行為を理由とする賃貸借解除の主張につき判断するに、控訴人作成部分についてはその署名押印の真正なことについて争いのないところからまたその余の部分についてはそれぞれ原審証人中路捨一郎及び柳一太郎の証言によつていずれも真正に成立したものと認める甲第一号証及び第三号証(これらは白紙に署名押印したもので内容は関知しない旨の原審及び当審における控訴人の本人尋問の際の供述は右各証人の証言に照らし採用しない。)、成立に争いのない同第二号証、右各証人の証言並びに原審における被控訴人本人尋問の結果を総合すれば、前記のように耕作の目的で本件土地を賃借した控訴人は、本件土地所有者たる被控訴人からなんら権限を与えられていないのにかかわらず、昭和二十八年三月から五月にかけて地主の代理人兼管理人として、被控訴人主張のように本件土地を三分して事実上宅地に変更した上これを訴外中路捨一郎ほか二名に建物所有のため賃貸することを約し、多額の権利金及び前払賃料を自ら収受し、その一部については自ら建築を下請し一応の整地をした上建築資材を搬入して建築に着手し該賃貸目的に副う土地使用が開始されたこと、さらには、右中路に対し地主の妻が病気であるからいつそのこと賃貸地を買い取つてもらいたいと申し向けたこと現に本件土地の上には控訴人の建築した二棟の建物が存在していること等の事実を認めることができ、この認定に牴触する原審及び当審における控訴人の本人尋問の際の供述は信用できず、他に右認定を動かすべき証拠はない。ところで、土地賃借人が代理権がないのにかかわらず賃貸人の代理人として賃借地を他に賃貸した場合は、賃借権の無断譲渡又は無断転貸に準じて扱うべきであるとしても、右に認定した事実だけでは、賃借人たる控訴人において民法第六百十二条第二項にいわゆる第三者をして賃借物の使用又は収益をなさしめた所為があつたとすることはできず、他にかような所為のあつたことを認めるべき証拠がないから、同項の類推適用を理由とする被控訴人の本件賃貸借解除の主張は採用できない。

二、しかしながら、本件土地の賃借目的が前に認定したように休閑地利用による耕作のためであるから、控訴人が右認定のように本件土地を建物所有に賃貸し自らは建築の下請をして整地の上建築に着手したことは、いわゆる用法違反に該当するところ、控訴人は、物価の変動によりかなり低額となつた従前の額による賃料すら前に認定したように数年間提供さえしなかつたのにかかわらず、右に認定したように、本件賃借地を他に賃貸することを約して権利金及び前払賃料を収受しているのであり、しかも、その賃貸に当つては地主の代理人兼管理人と僣称しているのみならず、賃借地の売却さえも交渉しているのであつて、これら一連の控訴人の行為は、賃借人としての義務に違反し賃貸借における当事者双互の信頼関係を裏切つて賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為というべく、賃貸人たる被控訴人は民法第五百四十一条所定の催告を要しないで賃貸借を将来に向つて解除することができるものと解すべきである。

(小沢 池田 賀集)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!